くられ先生の考える「真に有害なもの」・表現規制について

リテラシー
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初出:アリエナイ理科ノ大事典 改訂版
改稿:2022/07/10

今改めて考える表現規制と「真に有害なもの」

普段から自分は有害図書や、危険な情報といった雰囲気でいろいろさせてもらっているが、世の中にはそうした冗談を冗談と判断できない人もいます。

なんの根拠も無い、手前勝手の感情論、それどころか趣味趣向レベルの判断で、他人の表現物に「善し悪し」の烙印をし、その価値観を他人に押しつけて、それを善行したとか、正義断行したとのたまう人が、少なからずいるのです。

過激な表現規制など、現場を見ないデタラメな規制、こうした「当たり前の自由」を無くそうとする動きが大きく問題になっているのはご存じの通り。

別に火の粉が自分に降り注ぐだけなら良いのですが、それが多くの表現者や研究者、未来の天才の芽を潰すことになってはいかんと・・・これはマジで思うところです。

今回は、危険性、露悪性を売りにしてきた自分だからこそ、ややもすれば矢面に立たされる立場であるからこそ「アリエナイ理科ノ大事典 改訂版」に載せたあとがきを、ここに全文掲載します。

「真に有害なものとは?」を考えるきっかけにしていただければ幸いです。

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アリエナイ理科ノ大事典 改訂版 あとがき

本書は改訂版である。改訂版なので誌面を一部改訂して、せっかくなので前より豪華に、前より誤植も減らし、前より少しでも良くしたつもりである。

本来ならば改訂版なんか出さず、次を出すべきなのでしょう。しかし時代はそうもいかないどころか、どんどんと不気味な影が実態を帯びてきて、やむを得ず改訂版の刊行となりました。

本書は幾度となく「有害図書指定」を受けてきたシリーズの本です。

有害図書というのは、言わば表現規制の一つの形であります。本書を締め括る最後として、この「表現規制」について意見を述べさせていただこうと思う。自分は最も不謹慎な理系書の著者であり、そしてイカれちぎったこの本の著者の代表であることは十分承知している。

一方で、教育の現場でも仕事をさせていただいているし、このネット社会もそれなりに俯瞰で見てきました。それなりに表現規制と、それを執り行う連中がどういった人物なのかも調べたりもしてきました。

その上で、である。
どうせ彼らは後書きなんか読んでいないし、そもそも本文さえも見ていない。

ボクは普段は常に戯けて楽しく…そうあろうとお面を被って暮らしています。本音はあんまり言いません。

だって異端なのは、自分自身がよく分かっているから。
だからだから、みんなが喜ぶマッドで何も考えてない狂犬のようなキャラクターを演じているのです。
それに見合った仕事もいただいております。ありがたいことです。
こんな異端の変わり者を社会に置いてくれてありがとう。本当に感謝しています。

そういうわけでボクはこれからもお面を被って生きるのデス。

……でも、ま、たまには仮面を横に置いて話をしましょうか。
せっかくの後書きですから。

“有害”とは何か?

兵器の作り方や毒の製法などが載っている?
そんなものただの科学の見せ方を変えただけに過ぎません。
森羅万象はそもそも科学という地平ですべてつながっているのです。
花火を人に向けると危ない、包丁でお腹を刺せば人は死ぬ。その程度の話である。

言い訳がましいって思いますか?

それでも本書はシリーズを通して、「明白かつ現在の危険」を排除してきました。

「どうして有害図書指定になったのですか? 議事録を公開して下さい」と請求したら、「議事録を取っていない」と平然と対応されたこともあります。
行政の中で「雰囲気」だけで表現規制を行っている自称“正義の役人”には、基本原則さえ理解できていないだろうから、改めて説明しておこう。

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表現の自由の内容規制に対して、アメリカをはじめEU諸国でも、もちろん日本でも広く知られた違憲審査基準の1つで、
その内容が速やかに危険かつ、より大きな問題を起こす可能性がある…
誰がみても明らかなものにのみ特例的に「いい加減にしろ」と鉄槌を下すという考え。
大体適当だが、このくらいでいいだろう。
YouTubeやTwitterなどのSNSでも、この基準でコンテンツの妥当性を判断しています。

本書でたとえるならば、ドラッグストアで売っているコレとコレを混ぜて××のソレを指せば即席爆弾になるヨ!
××の××の最中は警備がザルなので、××を狙ってテロをすれば絶対楽しいゼ!!!…的な話でしょうか?

もちろん本書にそんな記事は載せてない。
そもそも爆弾に関しては、化学の教科書にも載っている基本的な合成法さえ避けて、いいとこ原子爆弾の仕組みくらい。
これで原爆が作れるヤツがいたらそれはすごいが、これを冗談と思えないような知性の人間が「危険な表現だ」なんて思ってるなら、噴飯どころか脱腸ものである。

それでも本書が「明白かつ現在の危険」の範疇だというのであれば、まずは「もっと明白かつ現在の危険」を排除してからにしていただきたい。

いまだ書店には、「添加物は悪、食べればガンになる」などと煽る本がのさばっています。
食品安全のための多くの努力、多くの実験(犠牲になった動物たち)と研究、研鑽された学問…これらを真っ向から否定し、この世界に混乱しかもたらさない、まるで暴動活動のような本。

本当に食品添加物に毒性があるというのなら、まずご自身がその根拠を示す論文を出し、世界中の研究者を納得させるべきだが彼らはしない。
根拠も無いしただの感情論…それどころか人の感情を利用した確信犯だから。
これは「明白かつ現在の危険」じゃないでしょうか?

ガンの初期ステージを見過ごす療法を是とし、あまつさえそれを自らの診断として多くの命を奪ってきた本は、「明白かつ現在の危険」ではないのでしょうか?
一部のイカれたエゴで理論をねじ曲げ、科学を否定するトンデモな自称正義の味方によって治療が遅れ、手遅れとなっってしまった人が既に何人もいる。
これは「明白かつ現在の危険」じゃないのでしょうか?

困窮した暮らしから脱したいが、何をしたらよいのか分からない人を徹底的に食い物にする「情報商材」。
そんな連中のハクを付けるために書かれた、何の中身も無いキャリアポルノ。
「この世界は汚れている」と入信を進め、全財産の寄付を強要する新興宗教の教義を説き、迷える人から奪えるだけ奪おうとする本…なんてのもごまんとある。

こいつらが消えるなら、自分は喜んで「有害図書」の烙印を受けましょう。

でも自分はこうした「ゴミみたいな本」でさえ、法規制すべきではないと考えます。

人は人に自分の思うことを伝える権利があるからです。
 
人は人に自分の表現を自由に伝える権利があるからです。

それを取捨選択し、選んで判断するのもまた人だからです。

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この話を深める前に、話を一端吹っ飛ばします。

日本でマンガがこれほど栄え、ビデオゲームが愛され、そして世界で評価されているのはどうしてでしょうか?

日本のアニメやマンガが「お手本」となり、今や世界中で多くの作品が生み出されていますが、ことマンガに関してはやはり日本の作品には一日の長があります。
それを生み出す、それを支えている文化こそ、その文化の根元にあるのは疑いようがありません。
コミックマーケットには50万人以上がたった数日に集い、そこで一次創作・二次創作・論評…、すべてがカオスに入り混じります。
そこは著作権などをあえて緩く取り扱うことで、エロやグロといったものもすべて包括的に土壌として保水する、豊かな土壌です。

「混沌」という言葉が最適なその土壌からは、日夜突然変異としか思えない度肝を抜く作品が生まれてきます。
キレイとタダシイだけの世界からは絶対に生まれようのない、イビツだけどメッチャオモシロイ。
すべての名作はそうした土壌から誕生しています。

例えば、映画大国アメリカ。ハリウッド映画は、世界屈指の予算と世界屈指のエンターテイメントです。
この映画という文化も、アメリカにしては意外なくらいの版権意識の緩さと、何でもあり…バカ・アホ・グロ・エロにまでどこの誰だか分からない金持ちが、金を出して作らせています。
クソみたいなB級映画が無限に生産されるのは、そんな混沌の土壌があるからこそではないでしょうか?
レンタル店に並ぶ怪しいパチモノ映画やエロパロ作品…本当にエンタメとしても出来損ないで、お世辞にも面白いとは言えないああいう映画は、日本ではあまり生まれません。
映画の土壌はあまり豊かではないからでしょう。

−−−ここで話を戻します。

自分がイヤだと思うものは、他人もイヤだと思っている。

この小さな考えは、小さな火の粉です。
 
まだ大丈夫。

自分がイヤだと思うことを、他人に伝える。

まだ大丈夫。むしろそれもまた自由であるべきだから。

しかしそれが、こうなると完全な戦火となります
「自分がイヤだと思うから相手から奪い取る、消し去る行為を正当とする」

戦火は戦火を生みます。

わたしとあなたは違う。
これで人類は何千年も殺し合いをしてきたじゃないですか。

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人は皆多様な考え、多様な性、多様な価値観を持ちます。
これを「理解できないから殺す」という考えにつなげた瞬間、そこに中世の魔女狩りと同じ空気が生まれます。
特にエロコンテンツは、その誹りを多く受けています。

エッチなものを悪として葬る活動は一見、正義に見えます。

仮にその活動が実を結びエッチなコンテンツが消えたら、次は間違いなく暴力表現がターゲットになり、魔女狩りの火は絶対に消えません。
エッチなものはいけないと思うけど、クールなお耽美殺し合いはカッコイイからいいじゃん…と思っても、エッチなものはいいけどクールなお耽美殺し合いは暴力を助長するから消すべき…と思っている人が、今度は自分の顔を消しに来るのです。

みんながみんなお互いの顔が気に入らないと、ケシゴムで消し合うのです。
そして世界はのっぺらぼうの世界になるではないですか。

これは行き過ぎた考えでしょうか? 極論でしょうか?

表現規制とはこれほどまでに重いのです。
日本はほぼほぼ何でも自由なので、普段はその自由さを実感することはあまりないのですが、海外旅行をするとどれほど恵まれているのかをイヤというほど思い知らされます。
だからこそこの国の「自由」は、本当に尊いのです。

そして今、この「自由」を当たり前だと思っている愚か者が、自らの小さな利権・見栄・プライドのために戦火に手をかけているではありませんか。
戦火は自由とは逆に1度火がつけば燃え広がりやすく、自由は失われやすいのです。
そしてその戦火は着々と表現を蝕んでいます。

再度言いましょう。
文化とは清濁併せ持ち、その中でいろいろわけ分かんないものが生まれ消えていくものです。その中の成功やキラキラしたものだけが本体では決してないのです。

わたしとあなたは違う。
それを強要するかどうかで、この混沌の土壌はいとも簡単に死ぬのです。

この重さを考えた上で「否定」を断行する重さを知るべきです。
全員を納得させられるだけの資料と根拠も提示せず、「気に入らないからお前は消えろ」と、これを権力のチカラでゴリ押しすること。

ボクはこれほどの「明白かつ現在の危険」を知りません。

薬理凶室 くられ

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著者紹介

くられ
くられ

作家、科学監修。「科学は楽しい!」を広めるため科学書分野で十数年以上活動。著作「アリエナイ理科」シリーズ累計30万部突破。著作「アリエナクナイ科学ノ教科書」が第49回・星雲賞ノンフィクション部門を受賞。週刊少年ジャンプ連載「Dr.STONE」においては科学監修を担当し、フィクションと実科学との架け橋として活躍。TV番組「世界一受けたい授業」「笑神様は突然に・・・」NHK「沼にハマってきいてみた」等に出演。ゲーム実況者集団「主役は我々だ!」と100万再生を超えるYouTube科学動画を多数共同製作。独自YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」登録者20万人突破。Twitterフォロワー13万人以上。教育系クリエイターとして注目されている。仕事の依頼や関連情報は https://twitter.com/reraku

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