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トリチウムってなんだろう? 科学のキホンに則って考えよう!

リテラシー
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初出:2023/09/05
改稿:2024/02/10

基礎的な科学で「トリチウム」を解説

さて、あれこれ話題になっている、トリチウム。

厳密にはトリチウムを含む水なんですが、それが海洋放出されて「危険?それとも安全?」みたいな話だけが盛り上がって、政治家も食べて安全性をアピールとか、サーフィンして安全性をアピールとか、開いた口が塞がらないアホの上塗りみたいなパフォーマンスをしてます。

そうやってわーわー騒ぐなんかよりずっと大事なのが、基礎的な科学で物事を考えることです。

科学は積み重ねの学問なので、基礎がガタガタだと嘘なのかホントなのかも見分けられなくなるので、マジのキホンの話をします。

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トリチウムは水素の仲間である

んなもん説明せんでも分かるわい・・・って思ってる理系の方は別にいいんですが、世の中には、名前が違えば違う物質だと思う人もいるので、改めて伝えておくと、

トリチウムは水素の一種です。

この世界の物質は、周期表に書いてある物質の組み合わせ・・・ってのはなんとなく習った人がいると思います。その中にT(トリチウム)はいないんですよ・・・じゃあなんやねん・・・ってことになりますね。

実は周期表に書いてある物質は一般的なやつとレアなやつがあったりします。ようするに同じ元素なのに重さが違うものがあるってイメージです。

化学の言葉で同じ物質だけど重さが違うモノを同位体(どういたい)と言います。似たような言葉に同素体というのがありますが、これはまた別物なので、気になる人は調べてみてください。

まぁ例えば、猫や犬でも、すげえ小さい品種やデカい品種がいる・・・これくらいの雰囲気で理解しておけばOKです。チワワもアフガンハウンドも犬ですよね。あれは柴犬くらいを一般的な犬と考えると軽い同位体と重い同位体とみなせるわけです。

いや、ガチ理系の人からすると「本質的には間違ってる」って怒られそうですが、今回は本当に何も知らない人向けに、多少アレでもわかりやすさを最優先ってことで。

というわけで、こんな感じにまずは理解しておいてください。

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人体内部に存在するカリウムの同位体

例えば、人間の体にも多いカリウムという元素があります。
ほとんどのカリウムは重さは39です。しかし0.01%の割合で40という体重の重いヤツが混ざっています。

このカリウム40は放射性元素で、放射能を持ちます。
塩化カリウムがたっぷり含まれるスーパーで売ってる減塩塩なんかでも0.01%程度でもガイガーカウンターをあてると数字がしっかり変わるくらいの放射線です。

こう説明すると「減塩塩って危ないじゃん!」とか言い出す人がいますが、そんな危ないものだったら普通に売られている訳ないじゃないですかって話で、無害ですw

ちなみにこの放射性カリウムや放射性炭素の存在比率を調べることで、化石などの年代を測定することができます。

話がそれました(笑)。本題のトリチウムに戻ります。

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三重水素の事を「トリチウム」と呼ぶ

トリチウムが水素ではない別の物質だと思ってる人も居るらしいんで、詳しく話をしていきましょう。

詳しく、といっても、今回は中学生にもわかるくらいの話にしていますので、ちょっと科学的に正しくない部分があるかもしれませんが、そこはやはり理解度優先ということでご承知置きください。
まず大前提になる部分を理解できないと、そもそもその上に成り立つ理屈も理解できないので、よろしくお願いします。

水素の同位体は重水素、デューテリウム(D)と三重水素、トリチウム(T)と呼ばれるものがあります。

同位体っていうのは、さっきも言ったように同じ元素でも重さの違うものです。
これはカリウムと同じで、重さの違うレア水素がこの世には存在します。

カリウムの同位体はカリウム40とだけ呼ばれてるのに、どうして水素だけDだのTだの元素記号みたいなものまで当てられているのか?

これは水素の重さがあまりにも軽い事が理由です。その辺を更に解説します。

同位体の重さを変えるのは中性子

同位体の重さが変わるのは中性子というものが関係しています。
この辺を構造をみながら説明しましょう。

これは水分子。Hが水素でOが酸素。水素原子が2個で、酸素原子が1個。
この酸素にくっついてる2つの水素。この水素を拡大してより解像度を上げてみます。

するとこんなかんじです。

重さが1のノーマル水素。
普通の水素は陽子と電子の1:1で電気的に釣り合った形をしています、電子は軽いので重さは無視して、質量1の水素の大半をしめるって考えでOKです。

重さの違う水素を見る前に、先にヘリウムの構造をみましょう。

ヘリウムは陽子が2個で重さが4です。あれれ? 水素は陽子が1つで電子が1つの重さが1の構造でしたが、ヘリウムはいきなりクソ重いですね。

この体重増加の原因が中性子です。

中性子はその名の通り電気的に中性な玉です。この玉は偶然にも陽子と同じ重さで、こいつがいても、原子の電気的な数値は変化しません。

とはいえ、影響がゼロとかではないので、入れる数は自ずと決まっているのですが、それはもうドエラくムズい話になって自分もわからないので説明はできません。

そもそも玉ってなんやねん・・・って話になってきて、これらの玉はさらに分解ができて・・・みたいに、話が無限にややこしくなっていくのですが、そこまでいくと「化学」ではなく「物理学」の領分になってくるのでこの辺で考えるのをやめておきましょう。

ともかく、電気的にナンモナシな中性子というなんかタマが原子核の中にあるってくらいのイメージで中学理科では十分です。

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トリチウムが特別扱いされる理由

そうしてようやく「重たい水素」の話ができるわけです。

水素に中性子が増えた「重水素(デューテリウム)」、質量が2の水素。
水素の2倍重いってことになるので、元が軽すぎるので倍の重さになると科学的性質も変わってくるので、分かりやすくするためにDと呼ぶようにしています。

同様に、中性子が2個、陽子が1個でできた重さが3倍の「三重水素(トリチウム)」。こちらも元が軽すぎて3倍の重さになってるので、やはり特別扱いでTと呼ばれるんですね。そして、トリチウムはベータ線を出す放射性元素です。

こう見ると、どこから電子湧いてくるねんとか、大事な電子を放射線としてだしたあとどうなるねん・・・みたいな疑問が浮かんでくる人もいるかもしれませんが、そこは自分で勉強してください(笑)

そんな感じで、改めてまとめると、水素に限ってはもとの重さが1と軽すぎるイレギュラーなので、2と3の重さの水素にはDとTと名前を特別に付けて扱っている・・・ということになります。

じゃあ放射能をもつ水素を含む水とかヤベーんじゃないのかと思う人もいるとおもうので、その辺をさらっとみておきましょう。

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研究機関すべてが足並み揃えて嘘をつく、は無理筋

まず政府や、電力会社自体の発表が信用ならんという考え・・・これはめっちゃ分かります。むしろわかりみしかない。

政治家は科学の理解さえないアホばっかりだし、トンチンカンな質疑応答でよりいっそう疑惑を深めるので、本当に死んで欲しいまであります。

まあそれはさておき、放射能のモニタリングなんかそれ以外の関係の無い研究機関、ようするにお国に忖度することのない科学者や研究所がゴマンとあって、それらも監視しているわけで、そういった関係者全員が歩調を合わせて嘘をついて世界を騙すなんてことはかなり無理筋でしょう。

その上で、発表されている通りに、トリチウム以外の放射性元素、例えば、セシウム137とかストロンチウム90とか、生体に入り込むとよからぬ場所にたまって放射線傷害を起こしやすい危険な元素などは除去して放水し、それが拡散されているという多方面の報告があればまぁ、一般的な科学の概念では別に忖度なく、そんなもんだろうネと思う範囲です。

ではトリチウムだけがなんで安全やねん・・・という話になるのですが、トリチウムは水素のなかでは超レアといいつつも、もともと自然界にも普通にあるもので、海というとんでもない分量に分散させると観測上、天然の存在比率と変わらなくなるという考えです。

もちろん水道水のかわりに毎日ガブガブのんでたら、だいぶよくないだろうという毒性はあると思いますが、毒とは量です。ガブガブ飲む訳じゃないんですから。

その上で、水素は循環しやすい元素なので、水として一定量体内に入り込んでもトラブルを起こす前にはまぁ居なくなるよね・・・という、ここでも毒=量として、一定量に満たない毒は毒ではないのです。

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素人が思いつく危険性は専門家が100万倍考えている

いやいや、水分子から水素をとりこんで体内に残留し蓄積し、放射能被曝をするに違いない。
政府の発表は嘘だ! 増税メガネに死の鉄槌を!!

みたいな人がいますネ。

昔からあらゆる放射性元素の危険性は調べられています。
トリチウムもそういった問題をおこす可能性は当然、多くの専門の科学者は考えており、1950年代から追跡調査が相当数あって、その結果「ない」というのが一応の結論になってます。

こうした生物濃縮の話は、レイチェル・カーソンの「沈黙の春(Silent Spring)」の影響が大きいです。

DDTなどの農薬が、生態系の中で濃縮されていくことを明示し、環境問題を提起したというのがインパクト強すぎて、あらゆる毒物がそうなると考えられがちというところ。

実際に水俣病やイタイイタイ病もこの生物濃縮(バイオリーチング)で起こった病気なので、慎重になるのはすごいわかります。

それゆえ、ちゃんとした専門家は絶対にその問題を考えるのです。
考えない訳がありません。

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なぜ非専門家のSNS発信が正しいと思うのか?

なので、もしヘンテコな自称ナントカ学者やナントカ医学博士が、トリチウムが生物濃縮を起こして云々かんぬんと言うのであれば、SNSで発信する前に、1950年代からの報告をみっちり読んで、その間違いやひっくり返すだけの根拠をしっかりと出して論じるのがお仕事になります。
何千何万という専門家がウッカリ見逃していたすごいミスがあるかもしれませんので、それを発見しているかもしれません(笑)。

人間を含む動物、植物、この地球上にいる生命は、そもそもにして、ある程度の放射性物質と共存を前提とした生理構造を持っています。
放射性カリウム満載のバナナを食べてもなんの問題もないのはそのおかげです。

問題は、どの放射性元素が監視すべき危険なモノなのか、そうでないのかを判断することで、これまた膨大な研究から、コレとアレはやばいから絶対野外に捨てないようにね! みたいな話になっとるわけです。

難しい専門の科学で考えるには、相応の難しい専門知識をしっかり学んだ人ではないと判断はできません。自分も全部を高解像度で説明できるかといわれると、NOです。

とはいえ、小中学校の程度の科学のキホンも分かってない人が、手を抜いて調べようとナゾに高度な情報を探しても、それが信じるに値する科学なのか、それともニセ科学の嘘情報なのかも判断が付かなければ2択で地獄に落ちるわけです。

特に意識だけが高い人は、そうした素人が陥りやすい、思考の上でドボンしやすい部分にはまりやすいといった傾向もある(なんなら自分もハマるくらい)ので、悪意なくデマを広げてしまうこともあるわけです。

というわけで、この記事だって間違いがあるかもしれませんし、参考の1つでしかない程度に考えておくべきなのです。

判断はアナタの手に委ねられていますが、中学生の理科のレベルさえ満たしていないインチキに惑わされませんよう、足下にご注意を。

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著者紹介

くられ
くられ

作家、科学監修。「科学は楽しい!」を広めるため科学書分野で20年以上活動。著作「アリエナイ理科」シリーズ累計50万部突破。原作を務めるコミックス「科学はすべてを解決する!!」も50万部を超える。著作「アリエナクナイ科学ノ教科書」が第49回・星雲賞ノンフィクション部門を受賞。週刊少年ジャンプ連載「Dr.STONE」においては漫画/アニメ共に科学監修を担当。TV番組「世界一受けたい授業」「笑神様は突然に・・・」NHK「沼にハマってきいてみた」等に出演。ゲーム実況者集団「主役は我々だ!」と100万再生を超えるYouTube科学動画を多数共同製作。独自YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」チャンネル約30万登録やTwitterフォロワー16万人以上。教育系クリエイターとして注目されている。関連情報は https://twitter.com/reraku

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