【書評:くられ】「サリン事件 ー科学者の目でテロの真相に迫るー」

生活と科学
出典:【日本語字幕】「あのテロ事件から四半世紀~今も変わらないオウム真理教~」(本編)
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初出:2014/04/29 Vol.65 俺日記

Joker
Joker

先生、早いもので、もうサリン事件から25年が過ぎようとしているんですね。

くられ
くられ

公安がそんな動画をアップしていたね。サリン事件といえば、数年前に、科学者の目で見たかの事件の話を綴った書籍の書評をしたことがある。

Joker
Joker

ああ、そういえば、なんか日記で「どう評すればいいのか」って頭を抱えてましたね、その当時。

くられ
くられ

だって尊敬する先生の書籍だもん。自分のような半端者には荷が重い(笑)。

Joker
Joker

そうですか・・・ところでその書評の原稿が今ここにあるんですが。

くられ
くられ

あー、掲載誌も今ではほぼ手に入らないんで、良い機会だから公開しよう。かの事件は埋もれさせてはいかんしな。

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承前:くられ先生の物事の見方

来年、2020年で、かの「地下鉄サリン事件」の発生から四半世紀、25年が経つことになります。関連して、公安調査庁が啓発動画を制作して公開しているようです。

【日本語字幕】「あのテロ事件から四半世紀~今も変わらないオウム真理教~」(本編)

サリン事件といえば、自分が尊敬する大先生、AnthonyT. Tu著「サリン事件 ー科学者の目でテロの真相に迫るー」の書評を、以前させていただいたことがあります。

生まれて初めて読みたい本の書評をすることになったは良いものの、自分のような半端者が、先達の先生の本をどう評すればいいのか見当も付かず、数日途方に暮れていました。

書評。グダグダと理由をつけてつまらないものを高尚だと言ったり、ゴミ以下のものを着眼点が変わっているなどと逃げ口上をして自分の感性、価値観を見失うのは愚かだと自分は思っているので「おもしろい」「つまらない」でしか物事を見ないようにしています。

基本的に「つまらない」の理由はいくらでも見つかるモノ、故に批判、批評というのは簡単です。

逆に「おもしろい」理由ってのは、結局本質を説明していないことが多いので難しいのです。逆に言えばおもしろさが説明できるようなものはおもしろくないわけです。故にキチンと褒めるってのはなかなか難しいもので、それが尊敬する先生の本となれば、これはもう難儀なわけで(笑)。

ともあれ、四苦八苦しつつもその当時の月刊化学に掲載された書評があります。

これも良い機会なので、ここでその書評を改めて公開しようと思います。

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書評「サリン事件 ー科学者の目でテロの真相に迫るー」

初出:月刊化学 2014年6月号

オウム真理教が起こした、テロ活動からはや20年の歳月が流れようとしている。

それでも尚、世界的に類を見ない、「民間組織による神経ガスを用いた無差別テロ」は、多くの人の記憶に残っており、当時は幼児であった筈の今の学生世代でさえ、多くがその事件の存在やオウムという名前を知っているというのは、20年という歳月を経ても未だに注目度は高い。

当然ながら現在に至るまで数々のオウム関連図書は出版され、そのカルト性、残忍性などを伝えるに至っているが、今回拝読させていただいた「サリン事件 ー科学者の目でテロの真相に迫るー」という本はそうした従来の書籍とは趣を異にしている。

サリン。強力な神経ガスであり化学兵器である。これを宗教集団が人々の殺傷に用いた事件であるが、その裏「民間組織が神経ガスを合成した」という内容については、あまり多く化学的に語られてはいない。

オウム真理教はこの化学兵器を、自前の組織で作り上げ使用に至ったという点。この部分に本格的にメスを入れた書籍は、嘆かわしいことに国内の本には殆ど無かった。

山奥の宗教施設の中という閉鎖環境で意馬心猿に走った科学者が何をしたか・・・犯罪組織としてのバックグラウンドで「どのような科学犯罪が行われていたのか」この一点に焦点を絞り、実際に死刑囚と幾度も面談を繰り返し、その事件の科学的な側面を毒物学の専門家である、Anthony T.Tu氏が考察し、まとめた極めて貴重な内容である。

驚いたのは、やはりただのオカルト集団とは一蹴できない技術の高さである。恥ずかしながら自分も、何冊か本やニュースを見て、彼らの作り出した化学兵器や麻薬は、所詮は未熟な腕で粗末なかろうじて出来上がったものを作っていたものと信じていた。

しかし、本書を読んでその考えは間違いなく改められるものとなった。

まず、サリンは実験室レベルではなく、プラント規模で合成可能になっていたという点。またサリンだけで無く様々な有機リン系神経ガス、とりわけVXガスの製造にも成功しており、その純度なども極めて高く、そしてなにより大半の毒ガスは汎用薬品から合成されているという点である。

またオウム関連の犯罪の中で失敗事件と揶揄される「炭疽菌事件」の裏側は、実際に失敗に終わったものの、その実、遺伝子組み換えを使い、無毒株を有毒株に変えるだけのバックボーンがあったという。すんでのところのミスでサリン事件級の被害が出なかっただけというのは背筋が寒くなる。
 
印象的だったのは、著者の論文が他の毒ガス事件のヒントとなったという証言に対して真摯に向き合っている点である。

ややもすればこうした犯罪の内容を紹介した本は、新たな犯罪を産むなどと冷や水を浴びせる様な扱いを受けることがある。

科学においてこうした盲目的発想は如何に危険であるか、表も裏も存在せず、すべては使用者である人間の責任に委ねられている、当たり前のこの事実は忘れられがちである。

そのことを再確認するためにも、科学に携わる者だけでなく、科学の恩恵にあずかっている多くの人々に本書を広く薦めたい。もちろん歴史的事件の本質を紐解く資料としても出色の良書である。

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関連書籍

Anthony T.Tu氏はこの他にも素晴らしい書籍を出されているので、ここでいくつか紹介します。

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