初出:2016/01/26 Vol.156 アルコールの分解能力
改稿:2024/06/12
・・・・・・(ヒック)
相変わらずお酒好きだね。空き瓶でボーリングが出来そうだけど、ほどほどにしときなよー。
言うほど毎日毎日飲んでるわけでもないんですけどね。
十分飲み過ぎだと思うが・・・いくら酒に強くても処理能力には限界があるし。
・・・はい、肝臓壊したくないから気を付けます。末永く飲みたいですし。とりあえず休肝日は作ってますし、まあ今日のところはもういっぱい・・・
はっはっは。一杯ではなく「いっぱい」なあたりが平常運転だな。まあ壊れたら旧式のアルコール内燃機関を、この核融合型エネルギー炉に交換してやろう!
・・・永久に酒が飲めなくなりそうなので、本当にあと一杯だけにしときますね。
青い日本酒・ライムを絞って「サムライロック」にすると紫に。
飲める飲めないは遺伝子で決まる
酒は百薬の長と言うかもしれませんが、過ぎたるはなんとやら。飲み過ぎはよくないのは今更言う話ではありません。
日本人を含む黄色人種の約半分はALDH(アルデヒド脱水素酵素)の2つの型のうち、ALDH2が弱いか、無いという特徴があります。
そもそもこのALDHというのは何なのかと言いますと、アルコールの分解のキーになる酵素です。
とてもざっくりアルコールの分解について触れると、お酒、つまりエチルアルコール(エタノール)が分解されてアセトアルデヒドに、そしてこれが更に分解されて酢酸になり、最終的に水と二酸化炭素になります。
この代謝の仕組みの中で、エタノールの代謝物、アセトアルデヒドを分解するのに働くのが、ALDHなのです。
2つの型があるALDH
ALDHには、アセトアルデヒドが低濃度の時に働く「ALDH1」と、高濃度になってようやく仕事をし出す「ALDH2」という2つの酵素があり、そしてこれらは遺伝子によって、その生産力が決まっています。両親が下戸の場合、子供も大半の場合が下戸なのはそういう理由です。
そして、最初に言った通り、黄色人種の半分は、ALDH2が弱いか、そもそもない訳です。
酒に強い人は、酒を飲んだ後にアセトアルデヒドが高濃度になっても、ALDH2が働いて悪酔いしにくいのでガンガン飲める訳ですが、このALDH2が少なかったりなかったりすると、分解しきれないアセトアルデヒドが悪さをして二日酔いをはじめ色々な機能障害が発生します。
もちろん、酒に強かったとしても、処理能力を超えると分解しきれず二日酔いになるので・・・だから酒の飲み過ぎはいかんのです。
アルコールパッチテストを受けよう
酒に強いか弱いかを見極めるのは簡単で、コップに半分ほどのビール程度で、顔が真っ赤になるかどうか。
真っ赤になる人は、ALDH2の活性がほぼほぼないと言っていいでしょう。自分も含めた「酒に弱い」人だと考えるべきです。
とはいえ、体質によってはビール一口でダウンしてしまう人もいますし、いきなり飲んで試すのはオススメできません。
面倒でも、未成年のうちにアルコールパッチテストを受けておくと良いでしょう。キットなんかも売られています。
絆創膏と消毒用アルコールで簡単チェック
もっとも、テストそのものはシンプルで、ぶっちゃけ絆創膏と消毒用のアルコールがあればOK。
絆創膏のガーゼ部分にアルコールを垂らし、腕の内側に貼って数分置いた後に剥がして、皮膚が赤くなっているかどうかでチェックできます。
赤くなる人は飲めない人です。
酒を飲み続けても強くはならない
また、たまに「酒なんて飲み続ければ慣れて強くなる。吐くまで飲むのを繰り返すうちに飲めるようになる」などとほざく大馬鹿者がいますが、訓練で飲めるようにはなりません。より正確にはそれは「訓練」などというものでは断じてありません。
飲めない酒を無理矢理飲んで体に慣れさせる、などというのは、ただ体を過酷な環境において「鈍感化」させているだけです。体に良くないばかりか、こんな方法で酒を飲み続けると急性アル中を起こしかねません。
それはそうでしょう。「もう飲めないよ」という反応に対して、ただ鈍感になっているだけなのですから。
DVを受け続けて「このくらいなら痛くないから」なんていうのと同じレベルです。
そもそもたくさん飲めたっていい事なんかないので、体質的に飲めないならきっぱりと断りましょう。
そもそものアルコールの処理限界
アルコールに強い、弱いという話の他に、ALDH2のあるなしに関わらず、そもそもアルコールの分解速度というものはある程度決まっています。体重にもよりますが、1時間あたり、平均的に7〜10g程度とされています。
アルコール量の計算は、一般的に以下の式が使われます。
お酒の量(ml)×アルコール度数(%)/100×0.8
これに当てはめると、ビールの中瓶1本、5%の500mlで、20gとなります。ビールを1本飲んだだけで、2時間から3時間は分解に時間がかかる訳です。
このアルコール量20gというのがおおむね、一日あたりの適性飲酒量だと言われています。女性の場合は男性より処理能力が落ちるので、20gでもずっと飲酒を続けると良くないとも。
アルコール依存症とストゼロ
毎日毎日、大量の酒を飲んでいると、年中無休24時間で、分解しきれないアルコールが体内に残留する事になり、そういった状態が10年くらい続くと肝硬変が起こるとされているわけです。
アルコール依存症という奴ですね。ストロングゼロだとどうでしょうか?
9%の500mlなので、1本で36g、3時間半から5時間もかかります。ストゼロを毎日4本、5本と飲み続けると大変アカンことになる次第・・・すげーな、アル中御用達だわ・・・
アルコール依存症は大変恐ろしいものです。そうならないためにも、日頃の酒を減らすか、週に二日ほどは完全にアルコールを抜く日を作らなければ、いかに酒に強くても、死ぬほど後悔する日が一歩一歩迫ってくると、そう言える訳です。
何事もほどほどに!
こちらのサイトはなかなか良くまとまっていて見やすいのであわせてどうぞ。
「お酒の強い/弱い」を動画で紹介
動画シリーズ「教科書さん」でも、アルコールの分解について触れました。
こちらでは人種的なお酒への耐性だとか、そもそもなんで酔っ払うのか、また、エタノールは平気なのにメタノールはなぜダメなのか、といったその辺の話にも触れています。
エタノールが分解されてアセトアルデヒド、そして酢酸ができるように、メタノールが分解されるとホルムアルデヒドと蟻酸になります。
つまりはホルマリンができてしまうわけです。目に強く症状が現れ、失明したりするので「目散る」アルコールなんて呼ばれるわけですね。
悪名高き禁酒法の話【合法昔ばなし】
倫獄先生が語り部役の「合法昔ばなし」で禁酒法関連の話が公開されました。
色々とインパクトが強い話ですが・・・(笑)、動画で紹介されている「一週間でウイスキー2本」は、人種の違いを踏まえても、適性飲酒量の何倍なんだよという話ですね。
【飲んだら乗るな】飲酒運転はやめましょう
アルコールの分解速度については本記事で触れた通りとしまして、飲酒運転についてのお悩み相談、法的な話は動画として公開しております。
個人差はあれどお酒の分解にはほんの少々でも結構な時間が必要なので「飲んだら乗るな」の通り、飲んだ後に運転するのはやめましょう。
車で来て飲んでしまった場合は、素直に運転代行サービスを頼むべきです。
著者紹介
作家、科学監修。「科学は楽しい!」を広めるため科学書分野で20年以上活動。著作「アリエナイ理科」シリーズ累計50万部突破。原作を務めるコミックス「科学はすべてを解決する!!」も50万部を超える。著作「アリエナクナイ科学ノ教科書」が第49回・星雲賞ノンフィクション部門を受賞。週刊少年ジャンプ連載「Dr.STONE」においては漫画/アニメ共に科学監修を担当。TV番組「世界一受けたい授業」「笑神様は突然に・・・」NHK「沼にハマってきいてみた」等に出演。ゲーム実況者集団「主役は我々だ!」と100万再生を超えるYouTube科学動画を多数共同製作。独自YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」チャンネル約30万登録やTwitterフォロワー16万人以上。教育系クリエイターとして注目されている。関連情報は https://twitter.com/reraku
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