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【野菜と元素の循環】リンから紐解く「豊かな土地」の話

生活と科学
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くられ
くられ

本日は「野菜と元素の循環」についての話をしよう!

Joker
Joker

それはいいんですが、この大量のサラダはなんなんでしょうか、くられ先生。

くられ
くられ

野菜と一口に言っても、土に種を植えて水をかければ良いというものではないのだ。

Joker
Joker

まあ食べますが……うん、生のピーマンとパプリカがいいアクセントで美味しいですね。

くられ
くられ

野菜……植物が正常に育つには、足りない元素を肥料として補ってやらねばならん。

Joker
Joker

ドレッシングも絶妙ですね。うま味調味料と酸味料のバランスが良い感じ?

くられ
くられ

使ったら減ってしまうリンなどの元素を、うまく循環させることが肝要であり……おい、聞いてる?

Joker
Joker

聞いてる聞いてるー。それはそれとして、涙目の野菜嫌い怪人たちが正座してるのは何なのコレ?

POKA
POKA

はっはっは! 新しい罰ゲームの研究ではないか? おい、ケールも食うか?

野菜の成長に必要な元素

野菜は、言うまでもなく植物です。そして、植物は生物です。

生物の体は細胞でできています。細胞の中には水、タンパク質、脂質、糖、核酸などがあり、それらをさらに分解していけば、炭素、水素、酸素、窒素、リンといった元素に行き着きます。

何を当たり前のことを、と思うかもしれません。

しかし、「土から野菜を作る」という話を考えるとき、この元素で物事を見る視点がとても重要になります。

植物が育つためには、炭素、水素、酸素に加えて、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、鉄など、さまざまな元素が必要です。必要量には差がありますが、少量しか使わない元素も、欠ければ植物は正常に育ちません。

肥料の袋を見ると「N・P・K」とか書いてあるのを見ると思います。これらは必須元素の中でも特に多く必要とされる窒素、リン、カリウムを表しているわけです。

窒素は葉や茎を作るのに重要で、リンは根、花、種子などの発達やエネルギー代謝に関わり、カリウムは植物体内の水分調節やさまざまな酵素反応を支えます。

この中でも、少し特殊なのがリンです。

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リンの特殊性

リンは人間の骨や歯を構成するリン酸カルシウムの材料であり、DNAやRNA、細胞膜にも含まれています。そして何より、生物がエネルギーをやり取りするときに使うATPもアデノシン3リン酸ですから、リンを含む分子なわけです。

リンをはじめ、それぞれの元素は生命にとって、それぞれ代用できません。にも関わらず、リンには、炭素における二酸化炭素や、窒素における窒素ガスのような、大規模な気体の循環がほとんどないのです。

例えば、窒素肥料は、空気中に窒素があるため、それを取り込むことで、窒素分を畑に取り入れることができます。マメ科植物であれば、窒素固定菌の力を借りて窒素を循環系に取り込むことができますし、人類は、ハーバーボッシュ法を用いて、エネルギーを使って窒素を固定することを可能にしました。

畑で野菜を育てて収穫すれば、その野菜が育つ過程で中に取り込まれたリンは、当然畑の外へ運び出されますね。この運び出されたリンは、人間が食べれば、体を通り、下水や廃棄物へ移動するといえます。

現在ではほぼ無くなったと言ってもいいですが、昔は人間の屎尿を畑の肥やしとして使っていたのは、この、運び出されたリンを戻して野菜を育てるのに使う、そういったサイクル、循環の為でした。

つまり、何らかの形でリンを畑に戻してやらないと、育てられている野菜が利用できるリンは、収穫すればするほど減っていきます。

窒素については、大気中の窒素を原料にして化学肥料を作ることができます。しかしリンは、基本的には地中からリン鉱石を掘り出して、肥料に加工しなければなりません。

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日本はリンを輸入に頼っている

日本は、主要なリン酸肥料原料のほとんどを輸入に依存しています。

かつてリン酸アンモニウムの輸入先は中国に極端に偏っていましたが、近年はモロッコなどからの調達も増やし、供給先の分散が進められています。農林水産省によれば、中国からの輸入割合は、一時の約90%から約73%まで下がりました。

以前は、「リン鉱石は近いうちに枯渇する」といった話もよく聞かれました。しかし、現在確認されている資源量から見れば、世界のリン鉱石が直ちになくなるという状況ではありません。

ありませんが、しかし、問題がない訳でもありません。

経済的に採掘可能な埋蔵量は、一部の国に集中しており、米国地質調査所の2026年推計では、世界全体約730億トンのうち、約500億トンがモロッコに存在します。産地が偏っている以上、国際情勢、輸出政策、肥料価格、海上輸送などの影響を受けやすい。

リンの危うさは、単純な「あと何年で枯れる」という話よりも、代替できない資源を少数の供給地に頼っているという、地政学的な問題も大きいと言えます。

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日本固有の問題

さらに日本の農地には、もう一つ独特の問題があります。

日本の畑には、火山灰を母材とする黒ボク土が広く分布しています。黒ボク土は、水を保ちやすく、柔らかく、耕しやすい優れた土ですが、一方で、活性アルミニウムを多く含み、リン酸を強く吸着する性質があるのです。

肥料としてリンを加えても、そのすべてが植物に吸収されるわけではありません。かなりの部分が土壌粒子に捕まり、植物がすぐには使えない状態になります。

つまり日本の農地には、リンがあったとしても、植物が利用しにくい、という場所が多いのです。

日本の畑の約47%には黒ボク土が分布するとされており、これは日本の農業にとって無視できない性質で、例えるなら、土の中にリンという資産はあるが、しかし、その多くが暗号化されていて、そのままでは引き出せない状態、とでもいいましょうか。

この「暗号」を解く鍵の一部を持っているのが、生物です。

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リンを使いやすくしてくれる生物

リン溶解菌と呼ばれる微生物は、有機酸などを作り、植物が使いにくいリン酸化合物を溶けやすくします。菌根菌は植物の根と共生し、細い菌糸を土の中へ伸ばして、根だけでは届かない場所にあるリンを植物へ運びます。

そして、意外に重要なのがミミズです。

ミミズは土や落ち葉を飲み込み、筋肉質の消化器官ですりつぶし、消化管内の微生物とともに分解して、糞として土へ戻すのですが、この消化管を通過する間に、土のpH、有機物、微生物相、酵素の働きが変化します。

ミミズの糞では、有機物に結合したリンを切り離す、ホスファターゼという酵素の活性が高まり、植物が利用しやすいリンが増えることがあるのです。

これにより、ミミズは、自分だけが難溶性のリンを特別に食べられる生物というより、植物が使いにくい形で眠っていたリンを動かし、微生物や植物も利用しやすい形で、土へ返すといわれています。

生成AIで簡易クローリングして、181件の研究をメタ解析した内容でも、ミミズがいる土壌では、植物が利用可能なリン、微生物に取り込まれたリン、リンを動かす酵素の活性、植物の成長などが高まる傾向が示されていました。ようするにミミズが土地を豊かにするというのは、リンの再利用化も含まれているといっても過言では無いでしょう。

もちろん、ミミズだけですべてのリンを利用可能にできるわけではありません。

土壌の種類、酸性度、リンを吸着している鉱物、ミミズの種類によって効果は変わります。特に黒ボク土の強いリン固定を、ミミズだけで完全に解除できるわけではありませんが、細菌、菌類、植物の根、ミミズなどが複雑に関わることで、肥料として投入されたまま眠っているリンの一部が、少しずつ生物の循環へ戻されます。

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土地の豊かさの指標と湿地の役割

つまり「土の中にリンが何グラムあるか」と「植物が使えるリンが何グラムあるか」は同じではない、ということ。
土地の豊かさは、元素の総量だけでは決まらないという点も豊かさを評価する難しさです。

その元素が、どのような化合物になっているのか。
どの生物が、分解し、溶かし、運んでいるのか。
どれくらいの速さで、循環しているのか。

そこまで見なければ、本当の意味での土の豊かさは分かりません。

この視点で見ると、湿地の価値も違って見えてきます。

湿地は、一見すると水が溜まっているだけの、農地にも宅地にも使いにくい不毛な場所に見えるかもしれませんし、水が多すぎて木も生えません。

しかし元素の循環という視点では、湿地は非常に大きな役割を持っています。

湿地では、水の流れが遅くなるため、リンを含む土砂や有機物が沈みやすくなります。これにより。植物や微生物がそれを取り込み、昆虫、魚、鳥、両生類などが食べ、排泄し、死に、また別の生物に利用されるのです。

陸上の植物や動物が水辺へ元素を運び、水中で育った昆虫が羽化して陸へ飛び出すことで、水域の元素が陸上へ戻ることもあります。湿地の生物相は、森林の生物相より循環サイクルが激しく、動植物の流入が早いことが知られています。つまり、そこに蓄積されていくリンを含めた貴重な元素が増えやすいとも言えるわけです。

湿地は流れ去ろうとするリンを一時的に捕まえ、生物の体へ取り込み、化学的な形を変え、何度も使い直すための循環装置です。

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湿地と環境問題

ただし、湿地も万能ではありません。

リンが多量に流れ込み続ければ、湿地の土壌がリンを保持しきれなくなることがありますし、水中の酸素が少なくなったり、有機物が分解されたりすると、一度捕まえたリンが、再び水中へ放出されることもあります。

これはこれで問題になってしまうのです。

リンは少なすぎれば生物の成長を制限しますが、多すぎれば富栄養化を起こし、藻類の異常増殖や水中の酸欠につながります。池が富栄養化しすぎて、アオコが大量発生して、魚が全滅みたいなニュースは、見たことがあるかもしれません。池や湿地があればいいというわけではなく、適切に管理することも大事といえます。 

湿地は、何も生産していない未利用地ではありません。

流れてきた元素を受け止め、貯蔵し、変換し、生物へ受け渡し、ときには陸や川へ戻す、巨大な循環施設として近年注目されているというわけです。

もちろん湿地を作れば環境問題は解決というわけではありませんが、かなり重要な部分を担っているのは、近年の研究で、淡水系の湿地と、海洋資源の量という形で判明し始めてます。

今回は分かりやすい例としてリンを取り上げましたが、ソーラーパネル事業の餌食になりやすい、役に立たないと考えられがちな湿地は、非常に重要な役割を持っている例として紹介しました。

野菜と土、そこから元素に考えを広げて行くと、いろいろ見えるものも変わってきて、また興味深い話題も見つかると思うので、みなさんも是非調べてみてください。

湿地といえば、のオイカワ丸先生の書籍はこちら

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著者紹介

くられ
くられ

作家、科学監修。「科学は楽しい!」を広めるため科学書分野で20年以上活動。著作「アリエナイ理科」シリーズ累計50万部突破。原作を務めるコミックス「科学はすべてを解決する!!」も50万部を超える。著作「アリエナクナイ科学ノ教科書」が第49回・星雲賞ノンフィクション部門を受賞。週刊少年ジャンプ連載「Dr.STONE」においては漫画/アニメ共に科学監修を担当。TV番組「世界一受けたい授業」「笑神様は突然に・・・」NHK「沼にハマってきいてみた」等に出演。ゲーム実況者集団「主役は我々だ!」と100万再生を超えるYouTube科学動画を多数共同製作。独自YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」チャンネル約30万登録やTwitterフォロワー16万人以上。教育系クリエイターとして注目されている。関連情報は https://twitter.com/reraku

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