初出:2019/12/24 Vol.360 水という謎の液体
改稿:2024/11/25
本日は、化学的に見ると実は結構不思議な「水」の話をお送りしよう!
言われてみれば、氷は水に浮きますけど、固体、液体、気体の話を習うと「あれ?」って思いますもんね。
普通は同じ物質なら固体は液体に沈むからな。
はっはっは。水というなら電気分解して水素と酸素を700気圧のボンベにぶち込むのがだな、これはすごいパワーだぞ!
それ前にも言ってたよね・・・天丼は基本かもしれんが、頼むからその辺にしておいてくれ。
何、この前は止められてしまったのでな。今回は三分クッキング的に、ここにすでにブツを用意してあるぞ!
(・・・あ、これアカン奴だ)
はっはっは。では、パワーを実際に確かめてみよう! スイッチオン!
BOMB!
水という物質を科学する
たまにはちゃんとした化学の話もしましょう。
テーマは水。水is水。
水は水以外ではなく、それに水素やらケイ素やらが溶けたと自称するゴミが町中に売ってますが、機能的には水は水です。
水素水に至ってはザルで水を汲んで売るようなもの。水素分子はペットボトルのスキマから逃げ出すし、フタのパッキンのスキマからも余裕で逃げられます。
そういうぼったくり丸出しのシロモノなわけですが、今日はそういうオカルト商売につばを吐きゲロをぶっかけてケツに高水圧洗浄機をつっこむ話ではなく、水という分子についての話です。
人類が使える水の量は?
実は水というのは極めてへんてこりんな分子で、H2Oで表されるように水素2個と酸素1個で構成されています。地球でも相当多い物質で、地球の7割は海ですし、地下6kmまで水が存在することが知られています。
じゃあこの水で人類が使えるのは・・・となると、97%は海水で、残りの淡水の75%は氷として南極と北極に存在して・・・河川や湖などすぐに使える淡水は全体のたった0.05%です。
地下水は先の0.05%には含まれないのですが、埋蔵量が深さごとにわりとすぐに枯渇するので、工業的に使うと地盤沈下を起こすレベルで深掘りして採取しないといけなくなってコスパも極悪だったりします。
化学的に見ると奇妙な「水」という物質
水が化学物質として奇妙というのは化学をそこそこ勉強しないと実感できません。
例えば、まず水は非常に低分子であるということです。水のモル質量は約18g/mol、原子量1の水素が二つ、原子量16の酸素が一つなので18。
モルがよくわからなくて嘆いてる人もいると思いますが、この場合は重さの比較の問題で軽い重いだととりあえず思ってください。いやまあ、そのための単位がモルなんですが(笑)。
対して、LPガスとかのプロパンなんてガスの代名詞ですが、44g/molもあります。水より分子が重いのに、余裕で常温ではガスですよね。高圧に缶につめてようやく液化できるレベルです。
水に構造が近いH2S(硫化水素)もバリバリに気体ですね。硫化水素は34g/molです。こうして考えると、水って常温では気体のはずなんです。おかしいですね。
化学的な水の振る舞い・常温で液体である理由
これは酸素という原子が非共有電子対を持ってることと電気陰性度が高いことから来ています。
これによって、常温の水分子は水素部分と酸素部分でお互いに引き合います。これが水素結合と呼ばれるもので、編み目みたいな構造になり、見かけ上は大きな分子として働きます。
しかし、水素結合はそれほど強く結びつく力じゃあないので、ぐにぐにと液体として振る舞う事ができると、そういう訳です。
これが低分子の水が常温で液体である理由です。
氷が水に浮くのは何故か?
この互いに引き合う性質が今度は冷えたときに結晶構造を取ろうとすると、今度は分子間のスキマが増えるので密度は下がるので、氷は水に浮くわけです。
氷が水に浮くこと自体、日頃から見るせいで違和感を感じないかもしれませんが、実はこれ、化学的にはおかしいことなんですよ。
溶けた鉄に固体の鉄をいれると沈むように基本的に固体が液体に密度で負けるというのはこれまた珍しい性質というわけです。
そういうわけで水ひとつとっても、語る話題は無限大。化学という物質で物事を見る目があれば、いろいろなものが見えてきて、インチキ科学にも欺されにくくなるわけなので、みんな理科を勉強しましょう。
動画「ゼロから学べるチョーワカル化学」シリーズ
というわけで、本記事では、水の化学的振る舞いについて触れたのですが、化学はさっぱり、なんだかよくわからん・・・となっている方向けに、本当に基礎的なところからゼロベースで化学を学べる動画シリーズを始めました。
「ゼロから学べるチョーワカル化学」をぜひよろしくお願いします。
「水ってなんで燃えないの?」
実写動画のお悩み相談で化学的な「水」について取り上げました。
シンプルでありながらとても良い質問だと思うので、ぜひその理由を考えてみてください。
著者紹介
作家、科学監修。「科学は楽しい!」を広めるため科学書分野で20年以上活動。著作「アリエナイ理科」シリーズ累計50万部突破。原作を務めるコミックス「科学はすべてを解決する!!」も50万部を超える。著作「アリエナクナイ科学ノ教科書」が第49回・星雲賞ノンフィクション部門を受賞。週刊少年ジャンプ連載「Dr.STONE」においては漫画/アニメ共に科学監修を担当。TV番組「世界一受けたい授業」「笑神様は突然に・・・」NHK「沼にハマってきいてみた」等に出演。ゲーム実況者集団「主役は我々だ!」と100万再生を超えるYouTube科学動画を多数共同製作。独自YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」チャンネル約30万登録やTwitterフォロワー16万人以上。教育系クリエイターとして注目されている。関連情報は https://twitter.com/reraku
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