初出:2019/05/28 Vol.330 汗と熱中症と塩分補給
改稿:2020/05/05

いやー、今日も暑いですね、先生。ちょっと歩いただけですっかり汗だくですよ。

熱中症には気を付けねばならんな。水分補給のみならず、汗で失われるミネラルの補給も大事なのだ。

なるほど。かといってスポーツドリンクとかガブ飲みするとペットボトル症候群の危険があると聞きましたが・・・

ありゃ糖分がいささか多すぎるからな。だから、例えばこの味s(バッシャアア)冷たっ!

はっはっは。暑いというから、涼しくなる魔法の液体をかけてやったぞ!

うっひょぉぉぉぉ、超クール! 炎天下なのに寒いくらいだ! これは無敵なのでは・・・

やはりエキスというエキスを抽出した超ミント液は効果的だな!

・・・いや、あれ、体感だけで実際に体温下がる訳じゃないですよね? 熱中症まっしぐらでは?

そのうち自分の名前も思い出せなくなるかもしれんな!
※クールミントやハッカ油は涼しく感じますが、熱中症に気付きにくくなる事があります。本当に気を付けましょう。
熱中症にご用心
熱くなってくると熱中症の話題がニュースに上るようになるが、とりあえず、熱中症にならないように、猛暑の日は気を付けましょう。
炎天下に帽子も被らず出かけるのは危険です。
特に、体積が少ない子供では、少量の水は大量の水より温度が上がるのが早いのと同じ理由で、熱中症になりやすいといえます。
また、子供は身長が低い分、アスファルトの照り返しなどを大人よりも強烈に受けるので、その点にも注意すべきでしょう。
大人だとそれほどでもなくても、子供だとより暑い思いをしているというケースはままあります。
クソ暑い時に子連れでデモ活動とかぶっちゃけ殺人的で、ほとんど虐待と変わらないわけです。
死亡例が多いのは50歳以上
また、時として熱中症を甘くみている人がいるのも問題です。
昭和の頃の野球部のように練習中に水を飲ませないとか、暑さでバテるのは根性が足りないとか、そういう非科学的な理不尽は減り、水分補給の重要性などは周知されるようにはなってきました。
しかし「熱中症は熱でダウンしてしまうような症状なので、冷やせば問題ない」みたいな印象を持っている人も多いでしょう。
これについては、冷やすにしてもどこを冷やすかや、まずは炎天下から避難することが大事だったりします。
参考リンク(PDF)
熱中症の死亡者は、毎年数百人ほどにもなります。
このため、ちゃんとした処置をしなければ死に至ることもあると覚えておくべきです。
もっとも、実際に死亡例が多いのは50歳以上で、低年齢の死亡例は少ない訳ですが・・・とはいえ、死なない訳ではないので、ご安全に。
体温の上昇が危険なのは何故?
風邪なんかを引いた時もそうですが、そもそもにして、何故、体温が通常より上昇すると危険なのでしょうか?
よく言われているので知っていることかとは思いますが、人間の体温は42度以上になると危険です。
タンパク質の熱による不可逆変性は約60度程度からですが、42度を超えるとまずいというのは、細胞内の酵素が働かなくなるからです。
酵素は、細胞内でアレをコレにして、コレをあっちに運んで・・・みたいな細胞内の工具的な役割をしています。
この工具は非常に複雑な分子構造をしているため、取扱注意物体、つまり温度が最適な状態でなければ壊れてしまうわけです。
人間の体は結構頑丈にできてますが、繊細な部分もあり、一つ噛み合わなくなると加速度的に崩壊することもあって、つまり死にます。
汗の働き
なので、体温が高くなると、人間は汗をかいて体温を下げようとします。
汗が体表面で蒸発することで、気化熱により下げるわけです。
熱い日にシャツをバサバサするとひんやりするアレですね。女の子がたまにスカートをバサバサやってますが(笑)
ともあれ、汗が出る仕組みはというと、エクリン腺にナトリウムイオンと塩化物イオンが集められることで、浸透圧が高くなり、浸透圧を戻そうとまわりから水を集めてきて膨らんだところで周りの組織に押されて汗として出ます。
それ故、汗は本来、間質液(血液のかわりに細胞と細胞の間にある水分で血液とほぼ等張)で約1%くらいの塩加減なのですが、エクリン腺が再回収するので実際は半分程度に抑えられています。
塩分の不足で起きる「低ナトリウム血症」
さて、そんなわけで、暑くて汗をかいたら水分補給が必要なわけですが、塩分も一緒に出ていく以上、単に水を飲めばいい、というわけでもありません。
塩分はもともと体に多すぎても少なすぎても良くないもので、備蓄もできないものです。この辺の融通が利くなら、塩分の取りすぎで高血圧が云々みたいな問題は起きないわけですし。
よく汗をかく肉体労働者が塩っ辛い味付けのものを食べたがるのは、塩分の補給を必要としているから、という側面もあるわけです。
では、汗を大量にかいた後に塩分を補給しないでいるとどういうことになるのか?
水分補給だけだとナトリウムが補給できず、その状態で汗をかき続けると低ナトリウム血症などを引き起こすことがあり、それはそれで危険です。
低ナトリウム血症は初期段階で頭痛や手足のむくみなどが顕著に表れるので、汗っかきの人で身に覚えのあるひとは、塩分の摂取に気をつけてみるといいかもしれません。
塩分の補給には冷やした味噌汁もおすすめ
水分と塩分の補給には、スポーツドリンクもよいのですが、冷やし味噌汁も意外といけます。
味噌汁を作っておいて冷やしてもいいですし、冷水に味噌汁の素(パウチのもの)を入れて、少し出汁醤油でもいれて飲むと思いのほか頭もシャッキリします。
ポカリのようなソフトドリンクは甘すぎることが多く、スポーツ選手などは水で半分に割って飲むことがよくあります。
飲み過ぎによる急性の糖尿病、「ペットボトル症候群」というものもあり、熱中症を起こしやすい時期にはこれまた良く聞く話です。
ともあれ、特に寝苦しかった朝、寝ている間に思わぬナトリウム不足を起こしていることもあるので、朝に味噌汁を一杯飲んでみてもいいかもしれません。
著者紹介

サイエンス作家、タレント。シリーズ累計20万部の「アリエナイ理科」シリーズを始め楽しい科学書の分野で15年以上活躍。週刊少年ジャンプ連載「Dr.STONE」においては科学監修を務め、フィクションと実科学との架け橋として活躍中。TV番組「世界一受けたい授業」「笑神様」「MATSU」ぼっちの出演や、YouTubeで80万再生を超える科学動画を「主役は我々だ!」と共同製作も。仕事の依頼や関連情報は https://twitter.com/reraku
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